NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語センター

『赤い腕、黒いシーツ、緑の指』

Красная рука, чёрная простыня, зелёные пальцы (1990)
E. N. ウスペンスキー Э. Н. Успенский (1937-2018)
(2021年2月号掲載)

ウスペンスキー
E. N. ウスペンスキー

 作者のE. N. ウスペンスキーは、人形アニメ「チェブラーシカ」の生みの親として日本でもよく知られています。今回ご紹介する『赤い腕、黒いシーツ、緑の指』は雑誌「ピオネール」1990年の№ 2,3,4に「子供の怪談」として掲載され、後に書籍化されたものです。

 ある夏の朝、青少年キャンプ場で少年の絞殺死体が見つかります。少年は、他の子どもたちと一緒に大部屋で就寝し、次の朝そのままベッドで亡くなっていました。警察が呼ばれ、実況見分が行われますが、犯人につながる手がかりは見つかりませんでした。青少年キャンプ場の所長は、やって来た警察官のマトエンコに「あなたは笑うかもしれないが、これは絶対に『赤い腕』のしわざだ」と訴えます。「自分はもう20年も青少年キャンプ場の所長をしているが、何度も『赤い腕』の話を耳にしている。光り輝く赤い腕がどこからともなく飛んできて窓をノックし、部屋の中へ入り込み誰かの首を締めて殺すのだ。あるいは『黒いシーツ』が飛びかかってきて、その子が窒息して死ぬまで覆いかぶさって離れない、ということもある。また、人をくすぐり殺す『緑の指』の話はご存知か…」

 警察官のマトエンコはまともに取り合おうとせず、この件については企業実習に来ている若い法科学生、ラフマニンに任せることにします。翌日、ラフマニンがキャンプ場へ行ってみると、今度は所長が亡くなっていました。

 ラフマニンは調査を継続する中で、「赤い腕、黒いシーツ、緑の指」に代表される超自然現象をみずから体験することになります。しかし警察官マトエンコへの最終報告で、ラフマニンは「亡くなった人たちは、自らの恐怖のせいで死んだのだ」と言います。超自然現象そのものに殺人を行うような「物理的な力」があるわけではなく、ただそれを見た人間の多大なストレスこそが死の引き金となったのだ、とラフマニンに言わせることで、事件は一応の解決を見つつも恐怖は残る、という結末になっています。

 ウスペンスキーは子どもたちに広く呼びかけて怪談を収集し、それらをもとにこの『赤い腕、黒いシーツ、緑の指』を書き上げました。1965年に児童文学作家としてデビューし、2018年に亡くなるまで現役の作家であり続けた作者の人気の秘密は、読者である子どもたちの「現代性」に寄りそう、高いエンターテイメント性にあるようです。

(文:小林 淳子)

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