NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語センター

『すずめの子』

Воробьишко (1912)
M. ゴーリキイ М. Горький (1868-1936)
(2021年5月号掲載)

すずめの子
『すずめの子』

 プジックという名前のすずめの子が主人公です。お父さんの運んでくれる餌を食べて元気いっぱいのプジックは、まだ飛ぶことはできませんが好奇心にあふれ、目に入るものすべてを知りたいと思っています。巣から身を乗り出して外の世界を見ているプジックが「転げ落ちるのでは」とお母さんが心配すると、プジックは「なぜ? なぜ?」と聞き返します。プジックの質問にお母さんはひとつひとつていねいに答えますが、プジックはお母さんの答えを信じようとしません。

 あるとき、はじめて見た人間に翼がないことを不思議に思って質問するプジックに、お母さんは「もともと人間には翼がないのよ」と答えますが、お母さんの説明に納得しないプジックは「どうしてそうなの?」と聞きます。「だってもし人間にも翼があったら、私達すずめをつかまえに来るかもしれないでしょう」とお母さんが答えると、プジックは巣の一番はしに座り、翼をもたない人間をばかにする歌を歌い始めます。歌って、歌って、とうとう巣から転がり落ちたところに、折あしく猫がやって来ます。お母さんは、びっくりしたプジックを「窓まで飛びなさい!」と突き飛ばし、勇敢に猫に立ち向かいます。何とか窓まで飛び上がったプジックのところに、お母さんも無事逃げてきましたが、猫にかじられたお母さんの尾っぽの羽はなくなってしまったのでした。

 作者のM. ゴーリキイの筆致からは、両親の言うことを聞かないのは子どもらしい無知と好奇心からくるもので、「目上の者の言いなりになるのではなく、たとえ失敗しても自分の頭で考えようとする」ことをより重要視していることが感じられます。さらに、緊急時には自分を犠牲にしても子を守ろうとする親鳥の姿からは、心温まる読後感が得られます。

 ところで、ロシア語で鳥が「さえずる」ことをチリーカチчирикатьと言いますがこの物語には鳥の鳴き声を連想させる「チ」の音が多用されています。チェレスチュールчересчур(とても)、チェルビャクчервяк(虫)、チーヴィчивый(気前のよい)、チフ・チフчив-чив(カナリアなどの鳥の鳴き声)、チリークчирик(ずずめなどの鳴き声)、チャーダчадо(子どもへの呼びかけの言葉)、チェブラフヌッツアчебурахнуться(転ぶ)、チュー чу(ほら、それ)など、「チ」の音が主人公のプジックと親鳥の会話を中心にちりばめられていることで、まるで本当に鳥のさえずり言葉を聞いているような気持ちになります。

(文:小林 淳子)

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