NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語センター

『ワニのゲーナとおともだち』

Крокодил Гена и его друзья (1966)
E. N. ウスペンスキー Э. Н. Успенский (1937-2018)
(2021年1月号掲載)

ワニのゲーナとおともだち
『ワニのゲーナとおともだち』
初版本

 日本でも有名なロシアのアニメキャラクター「チェブラーシカ」は、『ワニのゲーナとおともだち』に登場します。南国の森に住むチェブラーシカは、ある朝散歩にでかけ、フルーツ園のそばでオレンジがいっぱい詰められた箱を見つけます。オレンジをおなかいっぱい食べ、そのまま箱の中で眠ってしまったチェブラーシカは、オレンジの箱ごと遠くの町へと運ばれてしまいます。新しい町でワニのゲーナや少女ガーリャ、シャパクリャクおばあさん、ライオンのレフ、犬のトービク、キリンのアニュータ、サルのマリヤたちと出会い、チェブラーシカの新しい生活が始まります。

 初版本発売の二年後にR. カチャーノフ監督により人形アニメ化され、チェブラーシカたちは一躍人気者になりました。可愛らしい姿が日本でもすっかりおなじみですが、実は原作ではチェブラーシカの外見について具体的には「茶色で、大きな目とふさふさの短いしっぽをもつ」としか書かれておらず、初版本に描かれたチェブラーシカ(写真右端)はアニメーション映画の姿とはかなり異なっています。

 チェブラーシカの最大の魅力は、どことなく哀愁を感じさせるところですが、私はそれを「部外者(よそ者)の悲哀」のせいではないかと考えています。新しい町では南国生まれのチェブラーシカは「よそ者」です。最初に連れて行かれた動物園では「まったく新種の生き物で、ウサギ舎に入れるべきか、トラ舎か、はたまたウミガメの仲間なのかわからない」として受け入れを拒否されます。働くことを条件に引き取ってくれた商店でも、家庭の中には入れてもらえず「店の横の電話ボックスで寝起きするように」と言われてしまいます。ワニのゲーナと友達になったチェブラーシカは、一人ぼっちの者たちのために「ともだちの家」を建てることにします。そうして友達を探しにやってきたライオン、サルなどが仲間に加わり、いっしょに「ともだちの家」を作るうちに、皆すっかり仲良くなります。もはや一人ぼっちの者はおらず、「ともだちの家」も必要がなくなり、チェブラーシカ自身が電話ボックスから移り住むことになります。愛らしいチェブラーシカのさらなる魅力「けなげさ」がハッピーエンドをもたらします。

(文:小林 淳子)

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