NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語センター

『黒いめんどり、あるいは地下の住人』

Чёрная курица, или Подземные жители (1829)
A. ポゴレーリスキイ А. Погорельский (1787-1836)
(2020年10月号掲載)

『黒いめんどり、あるいは地下の住人』
『黒いめんどり、あるいは地下の住人』

 作者のA. ポゴレーリスキイが書いた児童文学作品はこの一作のみですが、「ロシア児童文学の新機軸を打ち出した、独自性ゆたかな作品」として高く評価されています。それまでの児童文学のテーマは「道徳と教訓」にあり、ファンタジー性や情感が欠けていたのに対し、『黒いめんどり…』は、現実世界と空想の世界が交錯するストーリーとなっており、従来の児童文学とは異なるものでした。

 舞台は18世紀のペテルブルグ、主人公は寄宿学校で暮らす、心やさしく勤勉な少年アリョーシャです。ある日アリョーシャは料理女に殺されそうになっていた黒いめんどりを助けます。そのめんどりは、実は魔法の国の大臣が姿を変えていたもので、助けてくれたお礼にアリョーシャを魔法の国へ招待します。そして褒美に「勉強しなくても問題が解ける」麻の実を魔法の国の王様からもらいますが、同時に「魔法の国の存在を誰にもしゃべらない事」を約束させられます。麻の実の力で、努力せずに優等生となったアリョーシャは、高慢で怠け者の少年になってしまいますが、あるとき麻の実をなくしてしまいます。すると黒いめんどりが再び現れて麻の実をくれ、「くれぐれも魔法の国の事はしゃべらないように」と念をおします。麻の実の有無で成績が下がったり上がったりする事を不審に感じた教師に問い詰められ、アリョーシャはついに魔法の国の事をしゃべってしまいます。その夜、黒いめんどりがアリョーシャの前に現れ、「魔法の国が引っ越さなければならなくなった事」「元凶となったアリョーシャを魔法の国へ招待した自分は罪人となった事」を告げます。アリョーシャもまた魔法の学力(麻の実)を失いますが、もとの心やさしい勤勉な少年に戻るのでした。

 作者のA. ポゴレーリスキイは、甥のA. K. トルストイ(1817-1875)の幼年時代、文学教育を目的として本作品を執筆しました。このA. K. トルストイは『戦争と平和』等で有名なL. N. トルストイの親戚で、自身も後に作家となり『白銀公爵』などの作品を執筆しています。

(文:小林 淳子)

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