NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語センター

『ルスランとリュドミラ』(冒頭部分)

Руслан и Людмила
A. S. プーシキン А. С. Пушкин (1799-1837)
(2020年9月号掲載)

ルスランとリュドミラの「学者猫」
ルスランとリュドミラの「学者猫」

 A. S. プーシキンの書いた『ルスランとリュドミラ』は、作曲家のグリンカが作曲した同名のオペラでも有名です。『ルスランとリュドミラ』は長い物語詩で、もともとは大人向きに書かれた作品ですが、今回は本文に入る前の短い冒頭部分をご紹介します。この冒頭部はやさしいロシア語で書かれていること、ロシア民話でおなじみのキャラクターがたくさん登場することから、子どもたちに良く知られています。

ルスランとリュドミラ

入り江に立つみどりの樫の木に/金のくさりがかかっていた/くさりにつながれた学者猫が昼に夕に歩き回る/右へゆけば歌をうたい/左にゆけばお伽噺を語る/ そこはふしぎの国、森の精レーシーがさまよい/水の精ルサルカが枝に腰かけるところ/みしらぬ道の上にはふしぎな獣たちが足あとを残し/窓も扉もない小屋がにわとり足の上にたっている/そこは夢にたゆとう森と谷/朝焼けとともに/さびしい砂の岸辺に波が打ちよせる/そしてあかるい波の中から/三十人の美しい騎士たちが/海の守り役をしたがえてたち現れる/ そこは王子がふとしたはずみに/恐ろしい王を生け捕りにするところ/雲の中で人々の前で/森を越え海を越えて/魔法使いが勇士を運んでゆくところ/そこは囚われの嘆きの王女に/ 栗毛のオオカミが忠義をつくすところ/バーバ・ヤガーの臼がひとりでに歩き/ゆったりと進むところ/コシチェイ王が金の山で苦悩するところ/ロシアのたましいがあるところ/ロシアのにおいのするところ!/私はそこへ行き、蜜酒を飲んだ/海辺でみどりの樫の木を見た/樫の木の下にすわると学者の猫が/私にお伽噺を語ってくれた/その物語をひとつ覚えている/その物語を私は伝えよう…

(冒頭部分終わり。以降、『ルスランとリュドミラ』本文)

 「バーバ・ヤガー」はロシア民話によく登場する老婆で、ふだんはニワトリ足の上にたつ家に住んでおり、出かける時は空とぶ石臼に乗って移動すると言われています。コシチェイ王は「不死のコシチェイ」とも呼ばれ、ロシア民話の恐ろしい悪役として登場します。学者猫もロシアで愛されています。日本人のもつ猫のイメージ「人間に媚びない、自由で独立している」に加えて、ロシア童話の世界では「かしこくて分別がある」キャラクターとしても描かれます。

(文:小林 淳子)

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